idematsu-qのブログ

屋根のない学校をつくろう

言葉を紡ぐやりとり

f:id:Question-lab:20210126201254j:plain

春は近くまで来ているようです(撮影・マツミナ)

 

 しいのきとしいのみをどう扱ったものか悩んだ小学校1年生の言葉は、やりとりから紡ぎ出したともいえますね。唐代の詩人も、先達とやりとりしたのでしょうね。下書きをパソコンで打った学生はやりとりしたのでしょうか。

 

 私が手書きでの課題提出を思いついたのは、剽窃対策のためでした。新聞記者時代の経験を踏まえています。あちこちの大学で問題化していた剽窃を取材したことがありました。

 インターネットで検索した誰かの文章をコピー&ペーストする行為は、泥棒です。書いた人に大変失礼だし、自分の未来にも傷をつける恐ろしい行為です。そこまでは想像つくけれども、締め切りが目前にあると、つい……ということでしょうか。学則で剽窃を厳しく罰する大学もありましたが、根絶できたと聞いたことはいまだにありません。

 手書きを導入した結果、予想以上の収穫がありました。コピー&ペーストと違って書き写すのは手間がかかります。何行にもわたる文章を書き写すのは骨が折れるから、そのうち学生は要約をするようになりました。よく読んで文意をつかみ、簡潔にまとめようとする。自分が書いていた文章の流れにはめ込むために。そこで、一つ一つの言葉にまで、ひっかかりが生じます。あれ、なぜ著者はこの言葉を使ったのだろう。さっきは違う言葉を使っていたような気がする――。書き写したり、要約したりと文章と奮闘しながら、学生は著者とやりとりを始めていたのです。

 中には辞書を引いて言葉を増やすことを思いつく学生もいます。「センセー、いい辞書があったら紹介してください」と聞いてくれることもあります。待ってました、その一言。私が薦める辞書は、「新明解国語辞典」(三省堂)。「火炎瓶」の作り方や使い方、さらにはかぞえ方まで書いているユニークな辞書は、ほかにはありません。辞書は時代の変化も語ってくれます。先日出された8版で「恋愛」を引いてみたら、LGBTへの配慮でしょうか、『特定の異性に』(4版)から「異性」が消えていました。『特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと』(新明解国語辞典8版より)

 この熱い書きっぷりたるや。辞書の編集者たちは、きっと学生を広くて深くて楽しい言葉の世界に誘ってくれることでしょう。

 手書きをきっかけに、たくさんのやりとりが生まれるはず、と期待しているのです。甘いかな。(マツミナ)