志望校に合格できなかったあなたへ その2
前略
志望校に合格できなかったあなたに、昨日は医学部2浪の末に看護学部に進んだMさんの話をしました。今日は同じく医学部に落ちて看護学部に進んだSさんの話をしましょう。大学に入学した後も「なんで私はここにいるのか」と悩み続けていました。
Sさんが医学部を目指した動機は「国家資格ならば一生食いっぱぐれがない」。2008年に「リーマン・ショック」と呼ばれる世界的な金融危機が起きて、日本でも企業がバタバタと倒産しました。大勢の若者が職にあぶれ、社会問題になりました。当時中学生のSさんはそれを見て、「食いっぱぐれ」がとても心配になったようです。
看護学部は「保険」でした。浪人しても受からなかったら、自分はどう生きていったらいいのか。朝8時から夜9時まで勉強し続ける生活をしながらも不安だったからです。不安は的中し、浪人しても手は届きませんでした。
とりあえず浪人生活は終わっても、やる気は全くありません。勉強にも、実習にも。「ベッドメーキングなんて、何の意味があるわけ?」 先生に注意されるごとに「なぜ私はここにいるのか」とふてくされていました。別の大学を受け直すことも考えていました。友だちもできず、休み時間はいつもひとりで好きなK-popの音楽を聴く日々でした。
そんな日常を変えたのはK-popアイドルの訃報でした。
SNSによる攻撃、うつ病、自殺……。自分は芸能界にいるべき人間ではなかったのだ、といった内容も書き残していたと知りました。「ここではないどこか」を探していたのは、自分も同じ。自分は逃げることばかり考えていたけれど、彼は懸命に戦っていたんだ、しかも独りで。「今もどこかで苦しんでいる誰かのために、自分は看護師として何かしたい」
Sさんはこの春、大学院に進みます。精神保健を専門的に学んで、いずれは国際機関で働きたいと話しています。自分の道がいくらでも広がっていることに気づいたのです。
MさんとSさんの共通点は、問い続けていたことかもしれません。「なぜ自分はここにいるのか」「何がしたいのか」
志望校に進めなかったのは、とても残念です。けれども、それはたくさんあるうちの一つの選択肢に過ぎないのです。あなたの前にはたくさんの道があります。何度でも選び直してください。「なぜこの道なのか」と問い続ける限り、いつでもやり直せるし、その力があなたにはあります。
いつかどこかで、自分の道を颯爽と歩いているあなたとすれ違えることを楽しみにしています。
草々(マツミナ)