「できないの分岐点」の先で
ベランダのプランターに、きゅうりの苗を2株植えました。支柱を立て、ネットも張りました。家庭菜園の本に、こうした工夫がきゅうりの生長には重要と書かれていたからです。目指すは、グリーンカーテン。さあ、支柱とネットをしっかりつかんで、すくすく伸びなさいよ、と声をかけていました。
期待に応えて、1株はすぐに支柱につるをはわせ、小さな雌花も咲かせました。ところがもう1株は支柱に見向きもせず、勝手な方向に向かうばかり。風が吹くたびにゆらゆらとして、そのせいかどうか、支柱に早くから絡んで伸びている苗と見比べると、全く伸びていませんでした。なんだか心配なきゅうりだなあと眺めていました。
「質問力を磨く(Class Q)」の学生から先日、授業に注文がつきました。当日朝刊ではなく、数日前の新聞を使ってほしいというのです。Class Qでは、当日の朝刊のある記事を、「自分以外の誰か」になりきって読み、問いを立てるというワークをしています。学生は、それでは対応できない、新聞を読む時間も、なりきるための情報も思考する時間も足りない、というのです。もともと、こちらの指示に従わない傾向の学生です。リフレクションシートにも、毎回、授業や私に対する批判が書かれています。
学生は概ね、2パターンに分けられるとみています。「できないの分岐点」に立ったとき、自分で工夫して乗り越えようとする学生と、環境や相手を変えようとする学生と。どうやらこの学生は後者のようです。
もちろん、答えはNOです。社会は常に動いています。その中で「瞬時に深く」考えるためにも、こんな要求は飲めません。
ところが学生は引き下がりません。「じゃ、せめて2日前、いや前日の新聞でもいいです」となおも交渉を続けようとするのです。へえ、おもしろい。その真意を尋ねました。
「自分は読むのが遅い。なりきる立場を考えるのも遅い。でももっと深めたいんです」というのです。
なるほど。新たな学びの機会になるかもしれないな。
話し合った末、授業の3時間前、午前7時までに、教材で使う記事となりきる立場を私がその学生に伝える、学生からClass Qの仲間全員に流す、という妥協点にたどり着きました。明日のClass Qで、他の学生にも学生の提案を紹介します。さて、他の学生はどんな反応をするでしょうか。
ふとベランダを見たら、支柱に見向きもしなかったきゅうりの苗がいつの間にやら太く、高く伸びていました。早くから支柱に絡んでいた苗よりも、もっと高いところで支柱をつかんでいました。(マツミナ)