野菜売り場で
毎年8月15日が近づくと、なぜだか茨木のり子の詩集を開いています。今日はこの詩にひきつけられました。
「分別ざかりの大人たち/ゆめ 思うな/われわれの手にあまることどもは/孫子の代が切りひらいてくれるだろうなどと/今解決できなかったことは くりかえされる/より悪質に より深く 広く/これは厳たる法則のようだ」(『くりかえしのうた』より)
コロナの新規感染者は増える一方。そこに大雨で川が氾濫し、土砂崩れまで起きている状態です。天災はともかく、せめて専門家の諫言を聞き、世論に耳を傾けて、オリンピックをやめていたら、コロナ禍もここまでにはならなかったのでは、と思わずにはいられません。今の大人は大馬鹿だけれど、孫子の代になったらちっとはマシになるなどとゆめ思うな、と詩は厳しくうたっています。
でも、そうでもないかもよと思える、すてきな場面に出会いました。今日、買い物に出かけた野菜売り場でのことです。
前を行く若い男女に、ちょっと年上の女性が話しかけました。手にはビニール袋に入ったキュウリを手にしています。
「このキュウリ、あなたたちが今、その買い物カゴで引っ掛けて落としましたよ。ほら、もう折れてしまっています。買ってあげないと」
これがまた実にすてきな笑顔なのです。言葉のかけ方も押し付けがましくなく、嫌味っぽくもない。
男性は折れたキュウリを手にして「ああ、本当だ」。連れの女の人も「買わないとね。ちょっと高いけどね」と納得した様子です。折れたキュウリは、2人の買い物カゴにちんまりとおさまりました。
人に注意するのは難しい。それを聞き入れるのもまた難しい。さらりとやってのけた3人に拍手でした。(マツミナ)