idematsu-qのブログ

屋根のない学校をつくろう

同調圧力のなかで未来は拓けるか

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自動販売機の中の不思議な世界(マツミナ)

 

 先日、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑さんの講演を聞きました。「生命科学が未来を拓く」という勇ましいタイトルの講演は危機感にあふれていました。危機感の中心にあるのは、人材育成です。「日本の最大の課題」とまで言い切っていました。

 グローバル化、多極化が進む世界で、望まれるのは国際性、柔軟性を持ち、失敗を恐れない挑戦的な人だと本庶さんは強調します。ところが「日本の教育がそうした人材の育成を阻んでいる」。ご自身の体験もあるのでしょうか。小学校から高校までの教育では「調和第一主義」がはびこっているとみているようです。幼稚園に入る時はたくさんの「なぜ」を連発している子どもが、小学校を出る頃には「シーンとしている子ども」になっていると言うのです。同調圧力が強く、出る杭を打つ学校で、子どもたちは人目を気にし、目立つこと、失敗することを恐れる。挑戦的な人が育つ可能性は低くなります。さらに学校の先生たちは「得意を見出す」よりも、「欠点の修正」に目がいきがちです。先生たちがよかれと思ってしていることでも、子どもが気概を失うのは当然の帰結なのかもしれません。

 生命科学はわからないことの方が圧倒的に多く、いろいろなことを粘り強く試していくことが必要なのだそうです。そうしたアイデア型の研究で、同調圧力で萎縮した子どもが勝負をしていくのは難しいかもしれません。

 

 そういえば、ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎さんは「日本に帰らない理由」として「日本が調和を重んじていること」をあげていました。同調圧力を痛感していたのでしょうか。真鍋さんは日本に帰らないという選択をしたけれど、本庶さんはなぜ日本に拠点を置いているのか。しかも、人材育成のための基金も日本でつくっています。講演会を主催する作新学院理事長の畑恵さんが、その点を尋ねていました。

 本庶さんの答えはこうです。

 「僕は周りからどんなに煙たがられても、気にしない」

 周囲から「ごちゃごちゃ言われていた」ようですが、自分の好きなことに熱中し、同調圧力をはねかえしていたそうです。

 

 調和の重荷に耐えかねて出ていくか、「気にしない」と腹を括って我が道をまっしぐらに行くか。それとも同調圧力の中で「シーンとして」生きていくか。生命科学の進歩で長生きのチャンス自体は増えたけれど、日本の子どもたちの未来は拓けたのでしょうか。(マツミナ)