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屋根のない学校をつくろう

退学率は何を示すか

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私の血液は、砂糖と生クリームでできているのかも(撮影・マツミナ)

 今日は久しぶりに、「大学の実力」調査*について語り合うことができました。宮城県市民グループのオンライン勉強会にお招きいただきました。コロナ禍で学生たちがどういう困難に直面しているかを心配し、退学状況などのリサーチを始められたとか。なんと頼もしい。かつて自分が手がけた調査が、今でも何かのお役に立てていることも嬉しい限りです。

 「大学の実力」は、私が読売新聞記者時代に11年間続けた調査です。日本で初めて、各大学・学部の留年・退学・卒業率などを明らかにした調査で、2009年に初めて紙面に掲載した一覧表は、海外のメディアに紹介されるほど大きな話題を呼びました。

 当初、大学からはずいぶん抗議を受けました。「数字のひとり歩き」「風評被害で受験生が来なくなる」…。その度に、ランキングや偏差値頼りではなく、データをもとに、自分の道を自分で選べる高校生を一緒に育てていきませんか、と頭を下げたものでした。

 11年の間には回答率が92%にまで上がり、「大学の実力」のデータを使った進路指導に取り組む先生が現れました。「『大学の実力』で進路を決めました」と笑顔で話す学生にも会いました。けれども偏差値や知名度、入試科目・日程で進路を選ぶ風潮は覆せず、私の退職と同時に調査も終わりました。

 

 今日のテーマは「退学率」でした。この数字が何を示すのか、参加者の関心はそこに集中していました。退学率が何を示すかを簡単に説明できないのは、今も同じです。大学・学部に足を運び、学生や退学者に取材しなければ、その意味はわかりません。問題が高校の進路指導にあるケースもあれば、本人や親ということもある。もちろん、大学にある場合もあります。

 ある工業大学では毎年、近隣のライバル大学に比べて高い退学率を出していました。成績評価を厳格にしているためでした。理系の学問は積み上げ型なので、いったんつまずくとリカバーが難しいこと、学費も高額のため、早く進路を転換させた方がよいと考えての対応でした。退学率は確かに高いけれど、悪い大学と言っていいのか。一方で「うちは退学率が低い」と胸を張る大学もありました。けれども実数で見ると、学年の300人も退学していました。退学「率」だけではわからないのです。

 自分の道を見つけて大学を飛び出すのは、本人にとっては新しい人生の始まりですが、大学にとっては「退学」です。こういう現実から考えると、「経済的損失」という観点で退学率を云々するのは難しいでしょう。ただ、退学率は何かを意味している、しかも大きな変化の予兆ではないか、ひょっとしたら「炭鉱のカナリア」ではないかと、取材しながらいつも考えていました。

 今日はそんなことをお伝えしてきました。コロナ禍の学生を支援する何らかのお役に立てればいいなあと思いながら。

 同時に反省しました。学生にあれだけ「自分の問いを大切にしろ、考え続けろ」と言っているにもかかわらず、放置していました。今の自分の原点なのに。あかん。

 呼んでくださった皆さんに改めて感謝です。これを読んでくださった方も、大学だけでなく、学びの現場の今と未来を一緒に考えていただければありがたいです。(マツミナ)

 

*『大学の実力』 2011~2019はいずれも中央公論新社刊。