スマホに奪われた力と時間
先日、学生が神妙な表情で相談してきました。
「どうしたら読む力がアップしますか」
インターンシップ先の企業で、人事担当者に「しっかり資料を読みなさい」と厳しく注意されたそうです。他大学の学生たちと一緒に「ゲームを作る」という課題に取り組んだものの、事前に渡された資料をどのチームもろくに読まなかったため、全員がお小言をいただいようです。
私に言われても馬耳東風なのに、インターンシップ先の企業から言われると効き目があるんだなあ。苦笑しながらも、まず読む時間を確保しなさいと助言すると、学生からはおさだまりの「時間がないです」が返ってきました。その時、瞬間的に「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)の一文が脳裏をよぎりました。
「スマホが及ぼす最大の影響はむしろ時間を奪うこと」
ためしに、スマホにどのぐらいの時間を使っているか、スクリーンタイムを確認させると、「1週間平均8時間」。1日14時間の日もありました。TwitterにLINE、YouTube、音楽、ゲーム…。食事や入浴、睡眠時間以外はスマホを使っている状態です。
内閣府の「青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、高校生の98%がスマホでネットにつながり、平均利用時間は毎年増えていて、2020年度は267分でした。親や学校の監視下にある高校生ですら1日4時間超ですから、大学生となったらどう使うでしょうか。
スマホには「中毒性」があるように見えます。絶えずいろいろな情報が入ってくる画面は確かに刺激的です。けれども集中して読む力はつくわけがないでしょう。「集中力こそ現代社会の貴重品」(ハンセン)は至言です。
「知識基盤社会の主役は人間ではなさそうです」というイデちゃんの不吉な予感は、的を射ているかもしれません。「知識」を大量に抱え、検索すればその知識を即座に出してくれる「AI」こそが「主」。人間はその「主」ができないことを補う「主従逆転」は、官僚の書いた答申の上だけの問題では終わらない危険性が十分にあります。
先ほどの学生への助言は、「スマホは1日2時間以内」。それで紙の新聞を毎日1時間読む習慣をつければ、読む力はそのうちに必ずつくでしょう、と伝えました。「音楽とゲームは除外してもらえませんか」と食い下がるので、あなたは何がしたいのか、しっかり読む力をつけたいのではないのか、と笑顔で返しました。
知識基盤社会がどんな社会なのかはわかりません。少なくとも人間が自分の頭で考え、学び、生きる社会であってほしいと願っています。(マツミナ)