小さな商店街
自宅から歩いて駅まで行く途中に小さな商店街があります。古い街道に沿って肥料や野菜の種を売る店、葬式の花やちょうちんを扱う店、炭・燃料店、蕎麦屋などが並んでいますが、多くは看板だけで商いはしていないようです。ここに住み始めた頃は銭湯もありました。近隣からの買い物客で賑っていた頃が偲ばれます。
その一角に小さな和菓子屋があり、いつもは爺様一人で店番をしています。草餅、桜餅、ウグイス餅、おはぎなどの季節ものや、定番のみたらし団子や焼き団子が古びた商品ケースに並んでいます。毎日営業しているわけではなく、知らずに買いに行き当てが外れることもあります。
先日、駅からの帰りに立ち寄りました。店に入るとケースの後ろに座っていた爺様は「いらっしゃい」と言いながら立ち上がり、「今日は風が強いね」と迎えてくれました。
「明日は学校の卒業式だ、赤飯の注文があったよ」
近くにある小学校は、爺様が生まれる前からある古い学校です。もしかしたら卒業生かもしれません。
「天気が良くなるといいねえ、桜も咲いたし」
自分の子供はとうの昔に学校とは縁のない年になった爺様の、明日の天気を気遣う言葉に、住み続ける古い街への愛情のようなものを感じました。
注文した草餅と桜餅をパックに詰め、「はいよ。えーといくらになるかな」なんて言いながら輪ゴムで止めてくれました。
「袋代はいいや、めんどくせー」
「ありがとう」
「まいどっ」
5分もしない間のやりとりですが、外に出た時、なぜかいい気分でした。
広い駐車場を持つ大型小売店舗ができ、ずいぶん前から買い物は車に乗って出かけるようになりました。子供の頃よく母親に「お醤油が足らないから、ちょっとお使いに行ってきて」などと頼まれることがありましたが、昔々の話になりました。
古い商店街に残った間口一軒の小さな和菓子屋さん。日銭が入る間は続けると言っていたけれど、爺様の後を継ぐ人はいないかもしれません。小さな店が生き残ることが難しい時代ですね。(イデちゃん)