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屋根のない学校をつくろう

記述式問題の導入は困難

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赤もよし、白もよし、ダリアの競演

 2025年以降の大学入学共通テストでの英語民間検定試験と記述式問題の導入は困難とする有識者会議の提言案を受け、文科省が正式に断念する見通しとなったという新聞報道を見ました。これまで民間検定の採用をめぐっては、試験会場の偏りや経済的負担の大きさなどから公平性が担保されないことなどの問題が指摘されていました。 

 

 大学入試に記述式問題を出題すれば、高校ではそれに対応するために論理的思考力を育成するようになるだろう、それは大学教育でも役に立つという欲張った目論見もあったようですが、採点を委託する民間業者が質の高い採点者を大量に確保できないというお粗末な話から「取らぬ狸の皮算用」に終わったようです。

 

 入試改革は高大接続の在り方を検討する上で最も中心的な、いわば「目玉」になる問題ですが、大学入試を変えれば高校の授業が変わるという考え方は今に始まったことではありません。いつの時代も高校での学びの多くは大学入試を意識した、というより「縛られる」、もっと言えば「従属」したものにならざるをえません。ですから今回も大学入学共通テストで記述式の問題を導入すれば、高校の教育を変えることができると考えたのも当然のことと言えるでしょう。

 

 そもそも大学入学共通テストに記述式問題を導入しようと考えた理由は何だったのでしょうか。ことの始めは「思考力・判断力・表現力」を測ることを期待するところにあったようですが、自己採点と公式採点との不一致率の高さから無理があるという指摘や、中には「記述式にすれば思考力・判断力・表現力を測定できるのか」という根源的な問いかけもあったとも聞いています。 

 

 一方、受験業界では記述式問題の「傾向と対策」が既に練られているという話を耳にしました。大手予備校では自前の解析力を駆使して記述式問題の解答方法を開発し、その手順にそって記述すれば、ほぼ論点を外れることはないというのです。地方局のTV番組で、高校入試対策として50字記述や短文解答の技法を教える学習塾提供の放送を見たことがあります。受験指導のプロに掛かれば記述式問題といえども「手に負えない難問」ではなくなるようです。

 

 受験生の「思考力・判断力・表現力」を問う問題をシステマチックに解析し、「情報を処理する能力」を問う問題に置き換えてしまう受験業界の「能力」には脱帽するしかありません。「恐ろしさ」さえ感じます。A Iを駆使すればもっと高度で複雑な内容の問題も「処理」してしまうかもしれません。でも、そうした処理技術を駆使した技法で書かれた答案は、おそらくどれも似たような標準的な内容・構成になることが予想されます。そうなれば記述式問題を出題する意味がなくなってしまいます。

 

 「記述式にすれば思考力・判断力・表現力を測定できるのか」という指摘がこうしたことまで見通していたのかどうかはわかりませんが、いずれにしても導入を見合わせたことはよかったのではありませんか。その理由が「質の高い採点者を大量に確保できない」というのも皮肉ではありますが。代わりに、有識者会議の提言案にあるように、大学は個別入試で記述式の出題を出題し、自前の大学教員に採点させたらいいのではありませんか。まさか「質の高い採点者を大量に確保できない」とは言わないでしょう。(イデちゃん)