idematsu-qのブログ

屋根のない学校をつくろう

いささか気になること

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左に稲田、右に蕎麦畑、道は黒姫山を目指す(イデちゃん)

 

   今朝(9月23日)の東京新聞がこう報じていました。

 「東京都町田市立小学校の6年生女児=当時(12)=が2020年11月、いじめを訴える遺書を残して自殺した問題で、石阪丈一市長は22日の記者会見で、新たに市長直属のいじめ問題調査委員会を年内にも設置する方針を明らかにした。弁護士や学識経験者ら第三者の委員5人で構成し、学校貸与のタブレット端末を使うなどの、いじめの経緯や自殺との因果関係を調査する」

 

   これまでの報道によれば、授業で使うために学校から1人1台配られたタブレット端末を使って、女子児童に対する悪口がやり取りされていたということです。タブレットに残されていた書き込みが何者かに消去され、内容の確認はできていないようです。

 文科省が町田市教委から聴取した情報によれば、パスワードは全員共通で、IDも児童の出席番号や年度など容易に類推可能な数字を組み合わせたものであったために、本人以外の人が誰かになりすまして書いたり消したりできたようです。

 そこで、文科省はパスワードの適切な運用について各教育委員会にあらためて周知徹底を図るために「小中学生に1人1台の端末を配る『GIGAスクール構想』について文科省が17日、全国の教委担当者約1000人と開いたオンライン会議で、パスワードとIDの管理方法などをさっそく指導」しました(9月17日付東京新聞)。

 

 改めて「いじめ」の新聞記事を辿ってみると、ここまでは学校で大きな「事故」が起こった時の「定番の筋書き」のように見えますが、耳に入ってくるいろいろな情報を重ねてみると、いささか気になることがあります。

 聞くところによれば、事故の起きた小学校は町田発未来型教育モデル校として、Edtechを活用した新時代の学びに挑戦しているICT教育先進校だそうです。事故当時の校長はICT教育に20年以上も関わり、教育の情報化に関する手引の作成、中央教育審議会委員、内閣府の青少年インターネット環境の整備等に関する検討会の委員などを務めて来た人です。そんな校長が指導してきたICT教育先進校に対して、今更「パスワードとIDの管理方法」などという初歩的な指導するのは「釈迦に説法」のようなものでしょう。

   この学校はICTを活用した教育研究について全国規模の公開発表会を開いています。文科省のI C T担当者も参観していたのではないでしょうか。仮にいたとしたら、その時、なぜ、パスワードとIDの管理に疑問を持たなかったのでしょうか。それともGIGAスクール構想を牽引する学校だから「見て見ぬ振り」でもしたのでしょうか。まさかとは思いますが、今回の文科省の手早い対応を「トカゲの尻尾切り」と勘ぐりたくなる手合いもいるかもしれません。

 

 いずれにしても、学校貸与のタブレット端末が「いじめ」の手段に使われたとすれば、学校の不作為は当然問われることになりますが、これは「他人を傷つけることを書き込まないなど留意事項を整理したチェックリスト」(文科省)を示して注意を喚起すれば済むような問題ではありません。第三者委員会の「深掘り」を期待します。(イデちゃん)

 

珠玉の言葉

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どんぐりが豊作(マツミナ)

 

    今日はキャスター・安藤優子さんのスペシャトークでした。社会人を対象とした上智大学の特別講座「プロフェッショナル・スタディーズ」の人気イベントです。テーマは「報道現場で女性が働くということ」。こういう会で司会進行役をできるなんて、ラッキーです。珠玉のような言葉をたくさんいただきました。

 

 〈学ぶということは、自分がものを知らないことを知ること〉

 1980年代からアウトプットし続けるうちに、全身が「カラカラ」になったと感じたそうです。そこで飛び込んだのが、母校・上智大学の大学院。12年がかりで博士論文を書き終えたとふりかえっていました。世界中を飛び回りながらの論文執筆は大変だったでしょう。それでも、そんな自分を俯瞰する余裕がある。学びの基礎体力があったのでしょうね。

 

 〈プラスチックの黄色い菊〉

 テレビ朝日のアシスタントとしてスタートを切ったそうです。その頃の自分を外国人記者たちに説明したものの、誰1人として「アシスタント」の意味がわからなかったとか。そこでこう説明したのです。「スーパーで売られている刺身のパック。そのつまに添えられた、プラスチックの黄色い菊が、アシスタント」だと。全員が理解しました。「君はそこにいただけなんだね」。メーンの男性司会者の横で、ただ頷き、時折笑顔を見せていればよかったのだそうです。

 

 〈女性であることを封印する〉

 そういう自分が嫌で、男性と同化する作戦に出ました。紛争地帯であろうが、事故現場であろうが、誰よりも先に現場に飛び込む。その結果、自分の身を守りきれず、同行するカメラマンの命まで危険に晒してしまい、同化作戦には多大な問題があることに気づいたそうです。

 

 〈感情の蛇口を締める〉

 今回のスペシャトークは、珍しく女性の参加者が大半を占めました。講演が終わるやいなや、参加者から次々に質問があがります。「女の子扱い」「セクハラ発言をやり過ごさなくてはいけない」…。そのうちの一つが「女性としてキャリアを築く上で大事にしてきたことは何か」でした。それに対する安藤さんの答えは「自分の気持ちをフラットに保つこと」。そのために、仕事の時には感情の蛇口を締めていたのだそうです。

 

 〈人の話をちゃんと聞く〉

 その姿勢は、政財界のトップにだけ発揮されたのではありません。ザイールの難民キャンプで暮らす子どもや、南アフリカの白人学校にたった1人で入学した女子生徒にも隔てなく向き合ってきたことが、言葉の端々に現れていました。

 潔さの漂う、姿勢の良い方でした。(マツミナ)

土に還る手続き 3

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実りの秋、黄金色の稲田(イデちゃん)

 

 今年5月に亡くなり、菩提寺に預かっていただいていた母の遺骨をお墓に納めました。秋晴れの下、曽孫4人に線香を手向けてもらい、これで名実ともに母は土に還りました。

 人が死亡すると様々な手続きが必要になります。以前も書きましたが、医師に死亡診断書を書いてもらって、役所に死亡届けを提出します。それによって火葬許可証と埋葬許可証が発行されます。葬儀、火葬を執り行い遺骨を墓に埋葬して、ようやく故人を弔う儀式が一段落します。

 こうした手続きは一生にうちに何回もあるようなことではありません。ですから手続きや業務を専門的に代行する業者に任せるという選択もあります。今回は自分で手続きをして納骨を行いましたが、結構面倒で、笑い話のようなやりとりもありました。

 

 市営墓地管理事務所係員(以下S)「ご苦労さまです。本日納骨される方はどなたですか」

私(以下I)「母です」

S「墓地使用契約者はどなたですか」

I「母です」

S「あなたは…」

I「子どもです」

S「墓地使用契約者ではありませんね」

I「どうすればいいのですか」

S「変更していただかないと…」

I「今日納骨に来たのに変更しないと、できないのですか」

S「使用契約者本人が自分のお骨を納骨することは…」

I「あり得ないですよね」

S「そうですね。でも…」

I「では、どうすればいいのですか」

  

 こんな珍問答の末、今日はとりあえず納骨させてもらい、後日、使用契約者変更届を提出することになりましたが、この手続きのなんと面倒だったことか。墓地使用者変更手続きに必要な書類等ってこんなにあるのです。

・承継前の使用者の墓地使用承諾証書 ・承継者の本籍地・筆頭者の記載のある住民票

・承継前の使用者との関係を証する戸籍謄本 ・印鑑 ・手数料 

・市外の方が承継する場合は、当市在住の代理人の住民票 ・代理人の印鑑

 

「土に還る」ことは容易ではありません。(イデちゃん)

 

教材を進化させる

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秋学期のエネルギー補給には、まず糖分(マツミナ)

 

 「質問力を磨く(Class Q)」で使っている教材「コンセプトマップ」を一新することにしました。連休の2日間、山浦晴男先生の思考法セミナーを受けながら、つくづく、自分自身が怠けていることを思い知らされました。

 コンセプトマップは、自分以外の誰かになりきって新聞記事を読み、たくさんのキーワードを抽出し、それらを360度に広げていくトレーニングシートです。記事はどれを選んでもいい。誰になりきってもいい。楽しみながらキーワードをつなげて、思考を広げてもらおうと考えて作りました。書きやすいようにデザインも変えながらもう5年は使ってきたでしょうか。そのうちに、コンセプトマップは楽しいと喜んでいる学生よりも、苦手意識を持つ学生が増えていると感じていました。

 なぜ苦手なのか。学生の言い分にヒントがありました。

 

 「ゴールが見えない」

 「何の役に立つのか分からない」

 

 これをヒントに、教材を作り替えました。まず、新聞を誰かになりきって読んで「テーマ設定」をします。つまり「○◯について考えよ」という命題を自分に出します。そこからは山浦先生の思考法を使って頭の中の言葉を見える化し、最終的には「仮説」を立てるところまで持っていきます。

 「仮説を立てる」がゴールです。これでテーマ設定から論理的な思考を重ねて仮説を立てるところまでいける、という「役立ち感」を実感してもらおうと狙っています。

 制限時間も設けました。30分間で記事を読み、A4サイズのシート1枚に思考を広げて仮説を立てる。これなら短期決戦、緊張感のあるワークの時間になるのではないかと見ています。

 

 学生の反応やいかに。明日、社会人を対象にしたClass Qでチャレンジしてきます。(マツミナ)

学校参観初日の感想は

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戸隠山高妻山飯綱山黒姫山妙高山(イデちゃん)

 

 9月15日からN君と一緒に小学校で参観を始めたMさんのリフレクションシートが届きました。卒業以来久しぶりに1日を過ごした小学校で「先生の多忙さと子どもの意外と大人な部分」(リフレクションシートより)を目の当たりにし、驚きも大きかったようです。

 

 「休み時間や給食の時間を削ってまでも作業する」先生の忙しい様子を見て、「時間をうまく使えるようにしないと、やることが多すぎて仕事を回しきれないのではないか」と思ったようで、「逆算して行動することがあまり得意でないので大学生の間に訓練しておく必要があると感じた」と書いています。

 

 また「先生が話そうとしているのを察して、誰か生徒が話をしていたら生徒内で注意し合っていた。そして、注意を受けた子も文句を言わずに静かにできて」いる様子に「子どもの意外と大人な部分」を発見し、自分がアルバイトで指導しているスイミングスクールの同年齢の子どもたちとの違いに驚いたようです。

 

 午後に行われた校内研究授業では、配布された指導案の内容や細かい資料にも驚かされたようです。前期の授業で「なんのために作るのかあまりよくわからない状態で作った指導案」に対して、「現職の先生が作成した(指導案)を実際に目にして、さらにそれを元にした授業を目にして、どれだけ指導案が重要なものなのかを体感できた」と書いています。

 

 「子ども」の時とは違う目で見た先生や児童の様子について新鮮な驚きを書いています。初日のこの感覚がこれから学校参観を続ける中で、どのように変わっていくか興味津々です。じっくり追いかけることにしましょう。(イデちゃん)

 

学校参観初日の感想は

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戸隠山高妻山飯綱山黒姫山妙高山(イデちゃん)

 

 9月15日からN君と一緒に小学校で参観を始めたMさんのリフレクションシートが届きました。卒業以来久しぶりに1日を過ごした小学校で「先生の多忙さと子どもの意外と大人な部分」(リフレクションシートより)を目の当たりにし、驚きも大きかったようです。

 

 「休み時間や給食の時間を削ってまでも作業する」先生の忙しい様子を見て、「時間をうまく使えるようにしないと、やることが多すぎて仕事を回しきれないのではないか」と思ったようで、「逆算して行動することがあまり得意でないので大学生の間に訓練しておく必要があると感じた」と書いています。

 

 また「先生が話そうとしているのを察して、誰か生徒が話をしていたら生徒内で注意し合っていた。そして、注意を受けた子も文句を言わずに静かにできて」いる様子に「子どもの意外と大人な部分」を発見し、自分がアルバイトで指導しているスイミングスクールの同年齢の子どもたちとの違いに驚いたようです。

 

 午後に行われた校内研究授業では、配布された指導案の内容や細かい資料にも驚かされたようです。前期の授業で「なんのために作るのかあまりよくわからない状態で作った指導案」に対して、「現職の先生が作成した(指導案)を実際に目にして、さらにそれを元にした授業を目にして、どれだけ指導案が重要なものなのかを体感できた」と書いています。

 

 「子ども」の時とは違う目で見た先生や児童の様子について新鮮な驚きを書いています。初日のこの感覚がこれから学校参観を続ける中で、どのように変わっていくか興味津々です。じっくり追いかけることにしましょう。(イデちゃん)

 

自分の価値観を疑う

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ミカンがこんなに色づいて(マツミナ)


 本日は朝から約7時間、みっちり思考法の勉強をしました。「ロジカル・ブレスト法」。講師は山浦晴男先生。かの「KJ法」を世に送り出した文化人類学者・川喜田二郎氏と一緒に、思考法の開発と普及に取り組んできた方です。勉強会は金沢大学の主催で、オンライン。これだけの長時間、パソコンの前に座っていれば、全身は疲労困憊、特に目の痛みを強く感じます。けれども、頭だけは妙に冴え冴えして、新学期の授業の組み立てをどうやって変えようかを考えています。

 

 本日の学びで最も衝撃を受けたのは、接続詞の使い方でした。駆け出しの新聞記者時代によく注意されたのは、「やたらと接続詞を使うな」。接続詞を使わなくても、記事の組み立てが論理的であれば、読者に理解してもらえる。字数も節約できる。接続詞を使わざるを得ない文章になっているときは、どこか論理の組み立てに欠陥がある。社説を見てみろ。ほとんど、接続詞を使っていないだろ――。こう言われたものです。

 ロジカル・ブレスト法でフル活用していたのは、まさにその接続詞。ある事実を起点に「そうはいうが/しかし」「そこで/それなら」「しかし」「ところで」などの接続詞を使って、思考を広げていくのです。

 今まで「やたらと使うな」と戒められ、自分でも必死に避けてきた接続詞が、思考を広げるうえで大いに役立つことに驚きました。自分の価値観とは違うものと出会い、咀嚼してみる面白さ。ひょっとしたら、自分が頑なに守り続けて、かえって思考を止めている価値観がほかにもあるかもしれません。自分の価値観を疑う大切さに改めて気づかされました。その意味でも、本日の勉強会には意味がありました。

 

 ここで具体例を出しながら説明したら、皆さんにもお伝えできたいいのでしょうが、今日はもうバッテリー切れ。ウルトラマンだったら、カラータイマーが点滅しているところです。

 勉強会は明日もあります。2日目もしっかり学んできます。 (マツミナ)

「考える先生」、小学校でも始まる

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コスモスがひまわりに追いついた(イデちゃん)

 

   9月15日から「考える先生」を育てるプロジェクトの第2グループの学校参観が始まりました。2人の学生を引き受けていただく区立小学校にミナさんと挨拶に伺い、初日の様子を「参観」させていただきました。

 

 3時間目、校庭では1年生が運動会で演ずるダンス(表現)の練習が始まりました。少し離れた場所から様子を見ていると「あそこにいますよ」と校長先生が教えてくれました。

 指差す方向に目を向けると、小さな子どもたちの向こうにMさんの姿がありました。1年生の補助をしているようです。何やら楽しそうな感じに見えました。

 2階の教室に行くとN君が算数の個別指導の手伝いをしていました。児童用の小さな机の前にしゃがみ込み、子どもの目線と同じ高さに顔を合わせて話し込んでいます。声は聞こえてきません。わからないところを教えているのでしょうか。邪魔しないように離れて見てきました。2人は午後行われる校内授業研究会にも参加させてもらうようです。

 

 その日の夜、N君のリフレクションシートが届きました。「視点」、「把握」、「表し方」の三つをキーワードに、気づいたことや考えたことがまとめられていました。

・柔軟な視点の必要性を感じた。視点を固定観念(ママ)するのではなく「多様なものの見方」を身につけたい。

・校庭もコミュニケーションの場、校庭で行われている児童同士の社会の機微というものを見極められるようになると決めた(ママ)。

 

 「社会の機微」とは子どもたちの間にある微妙な関係のことを言いたいのでしょうか。なんとなく言いたいことはわかるような気がしますが、意味不明な表現ですね。

ま、それはともかく、参観初日は大変刺激的であったようです。見たこと感じたことを大切にして、「固定観念」に囚われず「柔軟な視点」で観察を続けて欲しいと思います。

 

 「考える先生」プロジェクトでは、予め設定した教師モデルに近づけるための働きかけはしません。見方や考え方を教えるつもりもありません。なりたい先生のモデルを自分で作って欲しいからです。2人が何に目を向け、何を学び、何を考え、どのように成長・変化していくか楽しみです。

 校長先生、お付き合いよろしくお願いいたします。(イデちゃん)

 

 

リアルの力は強い

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キンモクセイ。ギンよりも香りが強い(マツミナ)

 

 帝京・上智の両大学で開いている授業「質問力を磨く(Class Q)」で初めて、「論文検証インターンシップ」を用意しました。自分が論文で展開した主張を、現場体験を通して検証する取り組みです。授業に協力してくださったITや建設、食品などの8社すべてが受け入れを快諾してくれました。

 春学期の最終課題は「営業職の研究」。8社のうち1社を取材し、営業職とは何をする職種なのか、どんな人がどのように働いているのか、どんな課題があるかなどを考え、1200字以内の論文にまとめました。その内容を自らの目でしっかりと見直してくるのです。

 授業はとっくに終わっていますが、10人近くが参加しました。論文を片手に企業に出かけ、数日がかりでインターンシップをしてきました。まだインターンシップ中の学生もいます。

 昨日、そのうちの3人が書き直した論文を提出しに来ました。面談ではいつも通り論文を音読してもらい、続けてこの質問を投げかけます。

 

 「で、この論文で結局、あなたは何を言いたいの?」

 

 前期の最終面談では、しどろもどろになっていました。困った挙句、「何が書きたかったんだと思いますか」と質問返しをしてきた学生もいました。私にはわからなかったから尋ねているの、というと「自分でもわかりません」。

 昨日の面談は違いました。3人とも自信を持って、自分の主張を口にしていました。相変わらず誤字脱字はあるし、根拠もなく言い切っている部分もありますが、どの論文にも「厚み」が出ているのです。多くの人たちと語り、ともに仕事をさせてもらったようです。これがリアルの力なんだ、と実感しました。どれほど新聞や本を読ませても、伝わらない現場の空気を吸った者だけが書ける内容を含んでいました。

 

 結局、3人はまた書き直すことになりました。やりとりしているうちに見逃していることがたくさんあったことに自ら気づいたためです。3人は再び企業に出かけるそうです。

 さあ、次はどんな論文を見せてくれるのでしょうか。秋学期の授業も楽しみです。(マツミナ)

運転免許証を更新しました

 

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免許更新のための検査と講習

 

 昨日、運転免許証の更新に行ってきました。受付開始は8時30分でしたが8時に運転免許試験場に着いた時には、すでに長い列ができていました。定刻になると列が動き始め、筆記試験の受験者はあちら、免許更新はこちらと手際良く振り分けられて、受付・手数料支払い・視力検査・写真撮影・免許申請まで30分ほどで済みました。

この調子だと思ったより早く終わりそうだなと期待したのですが、交付まで1時間ほど待たされ、新しい免許証を受け取ったのは10時過ぎでした。

 

   今回の免許更新の手続きは5月の認知機能検査から始まりました。日付けや時刻を正しく言えるか、イラストを記憶し正確に名前を言えるか等、記憶力・判断力を測定します。8月に指定の自動車教習所で高齢者2時間講習を受講し、動体視力や夜間視力等の検査と安全運転講義、実車運転による運転行動診断を受け、高齢者講習終了証明書をもらいました。そして9月に免許更新手続きを行い、やっと有効期間3年の運転免許証を手にすることができたというわけです。

 

 かかった費用は認知機能検査料750円、高齢者講習5100円、更新手数料2500円、合計8350円也。そして検査・講習・更新手続きのために3日間が必要です。後期高齢者でなければ2500円の手数料と約2時間の手続きで終わります。更新費用も講習時間も年金生活後期高齢者の方が多いのは理不尽な感じがしますが、高齢者の自動車運転事故が多発していることを考えれば、これくらいの時間と費用と手間をかけて自覚を促す必要があるのかも知れません。

 

 そういえば、大学などで30時間以上の講習を受けなくてはならない教員免許更新制は教員の負担が大きく、内容も実践的でないと評判が悪いことから文部科学省は廃止することにしたようですが、運転免許更新のための高齢者講習の評判はどうでしょうか。負担が大きいから廃止せよという声は……聞こえてこないようですね。(イデちゃん)

学びを支える非正規の先生

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雇用の現場も、これぐらいに甘さと豊かさを持っていれば(マツミナ)


 教員の雇用状況は酷い状況だと再認識させる一冊と出会いました。「非正規公務員のリアル」(上林陽治著、日本評論社刊)。就学援助を受けながら教壇に立っている臨時教員の現状が書かれていました。

 そのひとりが、九州の公立小学校で働く女性の臨時教員。かつては正規教員として4年間働き、夫の死別に伴い、子ども2人を抱えるシングルマザーとして公立小学校に戻りました。

 教歴10年以上で、これまでの期間すべてでクラス担任をしています。勤務状態は、正規教員と同じですが、税引後の給与は約19万円。生活保護世帯に準ずる低収入とみなされ、就学援助を受けています。

 同じ教歴の正規教員はこの地域では40万円程度を稼いでいるそうです。ですが、臨時教員だから昇給もありません。少しゆとりのある暮らしをしたいと考えても、公務員であるために兼職制限がかけられ、そもそもアルバイトをする時間の余裕もない状態です。

 

 同書によると、全国全ての地方公務員のうち非正規公務員は29%。3人に1人は非正規公務員といいます。「安定しているから」で公務員を目指す学生は、「質問力を磨く(Class Q)」にも何人もいます。決してそうではない現実を伝え、この本の一読を勧めなくてはなりません。学びを支える非正規の先生を、誰がどうやって支えていくのでしょうか。(マツミナ)

 

身分を証明するもの

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今年最後の収穫(イデちゃん)

 先日、加入している共済組合から「75歳到達に伴う任意継続組合員の資格喪失手続きについて」という通知が来ました。75歳からは後期高齢者医療広域連合が運営する「後期高齢者医療制度」の対象となるからです。そのために、これまで使用することができた任意継続組合員証を返還しなくてはなりません。相前後して市役所から「後期高齢者医療被保険者証」が届きました。75歳の誕生日からはこちらを使うことになります。

 

 東京都の教員に採用され教職員共済組合に加入し、その後行政職に転じてからは都職員共済組合に入り、退職後の継続組合員期間を含めると合計52年間、共済組合に所属していたことになります。共済組合員証は身分証明証の代わりにもなりました。それが資格喪失することにより、これからは所属や身分を証明するものがなくなります。「私」を公的に証明することができるのは戸籍や住民票だけになります。

 

 9月は運転免許証の更新の月です。「運転免許証更新のお知らせ」が届きました。更新手続きの説明に加えて、「運転免許証の自主返納・運転経歴証明書」の交付についてという欄がありました。「運転に自信が無くなったり、家族から『運転が心配』と言われたら運転免許証の自主返納をお考えください」「身分証明書として使用できる「運転経歴証明書」を申請できます」と書かれていました。

 

 運転免許証は組織や団体に属さない一介の市民が自分の身分を証明する簡便で有効な手段です。返納すればそれを失うことになるわけです。最近、判決が出された池袋乗用車暴走事故では改めて高齢者の自動車運転の危険性が問われています。もちろん、他人事ではありません。自分事として考えなくてならない時です。暴走事故の加害者は昔の自分の社会的地位に拘泥する余り、今の自分の能力を正しく認識することができなかったとすれば大変不幸なことです。

 

 組織や団体から外れ地位や身分を証明するものがなくなってしまうことは不自由で寂しいことかもしれませんが、歳を取ったら証明がいらない生き方をしたいものです。それでもどこの誰かを証明せよというのならマイナンバーカードを持ち歩けばいいだけのこと、なんでしょうね。(イデちゃん)

GIGAスクール構想で、何をしたいのか。 

 

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ルオー「マドレーヌ」(マツミナ)

 

 検証の対象にすべきは、都教育委員会だけではありません。今年4月に始まった「GIGAスクール構想」も同じです。「考える先生」を目指して毎週、公立中学校に通っている学生が先日、現場の状況を報告してくれました。

 学生が目にしたのは、各人に1台ずつ貸与された端末が「教材としてではなく遊具としても活用されている」現状です。授業中に先生の目を盗んで、タブレットでゲームをしたり、YouTubeを見ていたり。こっそりとワイアレスのイヤホンをして音楽を聴いている生徒がいれば、音量を消し忘れ、大音声で動画を再生した生徒もいたとか。これに対して、先生は「さらっと流していた」だけに、学生は驚きを禁じ得なかったようです。

 

 こうした話は、他の小中学校でも聞いていました。予想した通りです。そもそも児童生徒はもちろん、先生ですらGIGAスクール構想の意義を理解できていたとは思えなかったからです。

 理解されていないであろうことは、デジタル庁などの関係省庁が今年7月に実施し、9月に発表したアンケート(回答数21.7万件)の自由記述からも読み取ることができます。

 

「紙ではなく、わざわざタブレットにしなければならないことについて、納得できる理由を広めること(が重要だ)」

「なんでタブレットを使う必要があるのか、理由がわからない」

 

 わからないのだから、生徒はタブレットで遊びます。とりあえず触っていれば「ITスキルが向上する」と見ることもできるから、先生も注意に困るでしょう。両者とも、タブレットで何をしなければいけないのか、目標すら共有できていないのですから。

 

 もともと、2019年12月19日に萩生田文部科学大臣が出したメッセージが難解でした。

 「Society5.0時代に生きる子供たちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムです。(略)子供たちが変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え、持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成していくことが必要です。その際、子供たちがICTを適切・安全に使いこなすことができるようネットリテラシーなどの情報活用能力を育成していくことも重要です」

 

 難解、というより、このメッセージは空っぽ、何も言っていません。でも、多額の税金を投入して、取り組みを始めました。児童生徒のどんな力を伸ばすために、学校の高速大容量インターネット環境整備、児童生徒1人1台の学習端末導入を実現したのでしょう。文科省は一刻も早く、目的と目標を示してください。(マツミナ)

 

検証すべき対象は、都教育委員会だ

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「ひまわりがみんな私の方を向いている」(自惚れ屋の独り言)

 

 「パラ観戦 都教育委員『検証を』」(9月10日付東京新聞)という見出しを見つけました。誰が何を検証しようというのでしょう。興味津々で読みました。

 

「議論の経過をまとめ、他自治体と共有することも立派なレガシーだ」「感染対策に万全を期すためにコストも膨らんだだろう」「(児童・生徒、教員ら)一人あたりいくらかかったか検証し、情報を共有することは実施を選んだ都教委の使命」「(観戦するかどうかどうかの判断を)各学校がどのようなプロセスで方針を決めたかも知見として残すべき」等の発言が委員からあったようです。

 

 議事録がまだ公開されていないので発言の前後の文脈や詳しいことは分かりませんが、なんとも釈然としません。率直な感想を書きます。

 

・「議論の経過をまとめ、他の自治体と共有する」ということですが「4人の委員は実施に反対し、報告も了承しないと言ったのか。それとも、4人の委員から反対意見が出されたものの、報告は了承されたのか」議事録に照らして「議論の経過」を明らかにされるようお願いします。「立派なレガシー」などと綺麗ごとでごまかしてはいけません。

パラ観戦のための費用だけ取り出して検証するのではなく「オリパラ教育」全体の費用対効果を検証する必要はないのでしょうか。一人あたり膨大な費用が費やされたはずです。パラ観戦だけ取り出して、「感染対策のためにこんなに余分な費用がかかった」と言いたいのでしょうか。問題をすり替えてはいけません。

・「各学校の方針決定プロセスを調べよ」とのことですが、都教委の方針・通知に従って決定したのではありませんか。教育委員会が早く中止を決定していれば現場は混乱しなかったのではないですか。「知見の共有」と言えば聞こえがいいけれど、「一蓮托生」ということでしょうか。

 

 今になって「レガシー」だの「使命」だのと、もったいぶった言い方で検証の必要性を主張するのですか。もう一度言います。検証しなくてはならないのは「教育委員会はオリパラ観戦に反対だったのであれば、なぜ中止させなかったのか」ということではないのですか。検証すべき対象は判断を現場に丸投げした東京都教育委員会自身です。(イデちゃん)

「もう1杯!」がGDPを押し上げる?

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もう一皿!(マツミナ)

 

 先日、映画「アナザーラウンド(もう1杯)」はぜひお薦めとお伝えしました。人生の楽しみ方を考えさせてくれる作品ですよって。

 なぜこんなに印象に残ったのかと改めてふりかえるうち、ふと、あの映画に流れる通奏低音は多様性ではないかしら、と思い至りました。

 映画の舞台となる場所はさして広くはありません。学校とそれぞれの家庭という程度です。けれども、そこに出てくる人や考え方、生き方は実にさまざまでした。行動も日本とは全く違います。卒業のための口頭試問を何度も落ちている生徒に、酒を飲んで気持ちをリラックスさせろなんて助言する先生は、日本にはまずいないでしょう。納得して酒をラッパ飲みし、試験に臨む生徒もなかなかのものです。

 多様性はどこの国にもあります。大事なのは、多様かもしれません。

 

 ブログを読んだDさんがこんなコメントを寄せてくれました。多様性を受け入れ、多様な価値観を大事にする国では「ひとり当たりのGDP成長率が違う」というのです。

 例えばこの15年間をふりかえると、

 アメリカ117.9%

 イギリス74%

 ドイツ51.1%

 フランス51.1%

これに対して日本は4.6%だとか。ケタが違いますね。

 

 もう過去は仕方ない。大事なのはこれから。この差はどう変わるのでしょうか。

 DさんはG7各国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本)のひとり当たりGDPを計算してくれました。すると――

 

 日本:他の6か国=1:1.37

 

 「次の10年間で日本と他の国のひとり当たりGDPは、23.29倍もの差がつくということです」

 

 ちりも積もれば…。毎年1.37倍の差が10年でそんな大差になるのですね。実際の暮らしに落とし込んでみると、その差に愕然とします。

 

 「日本人が週40時間働いて獲得する価値を、他の国の人々は1時間43分で得られるのです。週休6.5日でも余裕です」

  

 え~ほんまでっか? 1週間40時間働くよりも、1時間43分の方がいいです。毎週6日も遊んでいられたら、自分はもちろん、家族も社会全体もハッピーです。

 

 多様性を受け入れる、さまざまな価値観を認めることは単なるスローガンではなく、実利のあることだったのですね。いただいたコメントの数字を何度も読み返していました。でもシラフでは読めない。「もう1杯!」 (マツミナ)